電気主任技術者に必要な実務経験
電気主任技術者は、以下に記載する実務経験を有していればステップアップが可能です。
実務経験期間は、電験の種類によって次のように決められています。
- 電験三種…実務経験5年
- 電験二種…実務経験4年
- 電験一種…実務経験3年
保安管理業務講習で実務経験を短縮できる
外部委託としての電気主任技術者(保安業務従事者)になるためには、実務経験が必要です。しかし、保安管理業務講習を受けることで、「電験二種」「電験三種」取得後の実務経験が3年までに短縮されるようになりました。
- 電験三種…保安管理業務講習を受けることで実務経験が5年から3年に短縮(2年の短縮)
- 電験二種…保安管理業務講習を受けることで実務経験が4年から3年に短縮(1年の短縮)
追加講習(拡充版保安管理業務講習)を受けることで、さらに1年の短縮が可能になり、実質2年の実務経験で外部委託に従事できるようになります。※電験すべての種類に適用
それぞれをわかりやすく把握できるように、以下の表にまとめました。
電験一種 | 電験二種 | 電験三種 | |
保安管理業務講習なし | 3年 | 4年 | 5年 |
保安管理業務講習 | 3年 | 3年 | 3年 |
拡充版保安管理業務講習 | 2年 | 2年 | 2年 |
なお、拡充版保安管理業務講習については、2024年4月時点で具体的な概要は策定されていません。
保安管理業務講習とは?
保安管理業務講習を受けることで、第2種または第3種電気主任技術者免許を持つ保安業務従事者が、短期間で外部委託制度の要件を満たすことができるようになりました。
講習は、「主任技術者制度の解釈及び運用」の※4.(2)に定められた保安管理業務講習として実施されます。
保安管理講習を受けられる場所
保安管理講習は日本全国の保安協会や保安法人で実施しています。
実施場所は、経済産業省の「保安管理業務講習実施者の要件と保安管理業務講習実施者一覧のご案内」にて確認できます。令和6年度の実施場所については、以下のページをご確認ください。
講習カリキュラム
保安管理業務講習カリキュラムは実施している会社によって異なります。
以下でカリキュラムの例をいくつか紹介します。
日本電気保安協会 | ||
時間 | カリキュラム内容 | |
1日目 | 12:50~17:20 | 電気基礎①座学電気基礎②座学 |
2日目 | 8:50~18:20 | 関係法令①座学関係法令②座学各種設備の概要座学月次点検の方法①座学 |
3日目 | 8:50~17:20 | 年次点検の方法①座学年次点検の方法②座学工事期間中の点検の方法座学点検用機械器具の取扱方法座学 |
4日目 | 8:50~16:20 | 点検用機械器具の取扱方法実習月次点検の方法 実習年次点検の方法①実習年次点検の方法②実習工事期間中の点検の方法実習 |
5日目 | 8:50~13:30 | 自己応動 座学作業安全/コンプライアンス/新技術座学 |
関東電気保安協会 | ||
科目 | 範囲 | 講習時間 (オンライン、実習のみ対面) |
電気基礎 | 交流回路、磁気回路短絡容量、保護協調、電圧降下変電機器、電力応用機器 | 4時間 |
関係法令 | 電気事業法、電気事業法施行令、電気事業法施行規則技術基準保安規定外部委託承認制度委託契約、外部委託承認申請手続き電気関係報告規則ポリ塩化ビフェニル含有電気工作物関係法令労働安全衛生法 | 3時間 |
各設備の概要 | 受変電設備配電設備発電設備蓄電池設備 | 2時間 |
月次点検の方法(実習含む) | 設置者への問診引込設備への外観点検受変電設備の外観点検、測定電線路の外観点検負荷設備の外観点検発電設備の外観点検、測定、試験蓄電池設備の外観点検設置者への報告 | 4時間(うち実習1時間) |
年次点検の方法(実習含む) | 引込設備の外観点検、測定、試験受変電設備の外観点検、測定、試験電線路の外観点検、測定、試験負荷設備の外観点検、測定発電設備の外観点検、測定、試験蓄電池設備の外観点検、測定、試験設置者への報告 | 7時間(うち実習3時間) |
工事期間中の点検の方法(実習含む) | 工事期間中の点検(竣工検査を含む)の要点単線結線図の読解設計図面と設備等の照合受電作業の手順設置者への報告 | 3時間(うち実習1時間) |
点検用機械器具の取扱方法 | 絶縁抵抗計、電流計、電圧計、低圧検電器、高圧検電器、接地抵抗計、騒音計、振動計、回転計、継電器試験装置、絶縁耐力試験装置の取扱いトレーサビリティ | 2時間(うち実習1時間) |
事故応動 | 波及事故、内部停電の復旧作業事故報告 | 2時間 |
作業安全、コンプライアンス、新技術 | 作業安全(絶縁用保護具等の使用方法)コンプライアンス(法令遵守、技術者倫理)新技術 | 2時間 |
(参考:保安管理業務講習 | 講習会のご案内)
環力 | ||
時間 | カリキュラム内容 | |
1日目 | 9:20~18:00 | 電気基礎①電気基礎②関係法令①関係法令② |
2日目 | 9:10~18:40 | 各種設備の概要事故応動①事故応動②年次点検の方法座学①年次点検の方法座学② |
3日目 | 9:10~18:40 | 月次点検の方法座学①月次点検の方法座学②工事期間中点検方法座学作業安全、コンプライアンス、新技術点検用の機械器具の取扱方法座学 |
4日目 | 9:10~17:30 | 点検器具取扱方法実習月次点検の方法実習工事期間中の点検の方法実習年次点検の方法実習①年次点検の方法実習② |
(参考:環力 保安管理業務講習会)
受講料
受講料も、実施している会社によって異なります。
上記で紹介した3社の例を紹介します。
日本電気保安協会 | 関東電気保安協会 | 環力 |
電験三種を取得している場合は12万1,000円(税込)電験二種を取得している場合は10万7,800円(税込) | 11万円(税込)電験二種を取得している場合は9万5,040円(税込) | 講習会開催回毎、4日間の全てを受講される場合は9万9,000円(税込)講習会開催回のうち一部を1日受講する場合は3万5,000円(税込)講習会開催回のうち一部を半日受講する場合は2万円(税込)※電験の種類による費用の差はない |
申し込み方法
申し込み方法は、実施している会社の申し込みフォームからおこなえます。
ただし、各社で定員が制限されているので注意しておきましょう。
- 日本電気保安協会…定員10名
- 関東電気保安協会…定員24名
- 環力…定員12名
保安管理業務講習で実務経験を短縮するメリット
保安管理業務講習で電気主任技術者の実務経験を短縮できることは、2つあります。
- 早い段階から外部委託に従事できる
- 電気主任技術者としての知識を得られる
それぞれのメリットについて、具体的に解説します。
早い段階から外部委託に従事できる
通常であれば、電気主任技術者として外部委託に従事する場合には、電験三種で5年、電験二種で4年の実務経験が必要です。しかし、実務経験を短縮できれば、早いうちから外部委託に従事できます。
外部委託に従事できるということは、電気主任技術者としての仕事量が増えるということでもあります。
また、経験を増やしていけることもメリットになるでしょう。
電気主任技術者としての知識を得られる
保安管理業務講習は、電気主任技術者としての正しい知識を得られます。
実際に、電気主任技術者として活躍している人でも、細かい技術について理解している人は少ないです。
しかし、保安管理業務講習を受ければ、座学と実習で必要な知識を得られます。
そのため、経験を積んでいくことによって、経験も知識もある、優秀な電気主任技術者として成長できます。また、事前に知識を学んでおくことで、成長のスピードも早くなるでしょう。
保安管理業務講習で実務経験を短縮するデメリット
保安管理業務講習で電気主任技術者の実務経験を短縮する場合は、デメリットも考慮しましょう。
主なデメリットとして、以下の2つがあります。
- 費用と日数がかかる
- 対応力が低いままに現場に出なければならない
これらのデメリットへの対処法はないので、メリットとデメリットを比較して、自身にとって最良の選択をしてください。
費用と日数がかかる
保安管理業務講習を受講するには、費用も日数もかかります。
費用については、電験の種類によって異なりますが、いずれにしても10万円〜13万円ほどかかります。
さらに追加講習(拡充版保安管理業務講習)を受ける場合は、より多くの費用がかかると想定されるでしょう。
日数については、通常の保安管理業務講習を受けるだけで1日約5時間〜9時間(休憩あり)もの講習を、5日間にわたって受けなければなりません。
そのため、講習を受ける際には数日間の休日を作る必要があります。
追加講習においては、75時間のカリキュラムが想定されています。
項目 | 内容 | 所要時間 |
竣工検査等 | 設計図面と設備等の照合工事期間中の点検(外観点検、ケーブル端末処理確認、ヒューズ容量確認等)竣工検査(外観点検、絶縁耐力試験、指示計器校正試験、設備台帳作成等)受電作業設置者への報告 | 15時間程度 |
月次点検 | 設置者への問診・報告引込設備、受変電設備、電線路、負荷設備、発電設備、蓄電池設備の点検(外観点検、温度測定、電圧・電流測定、漏洩電流測定、非常用発電設備の始動試験等) | 5時間程度 |
年次点検 | 点検前準備(操作手順書の作成、打ち合わせ、安全用具・測定器確認等)・設置者への問診・報告停電・復電作業(開放・投入作業、接地取付・取り外し)引込設備、受変電設備、電線路、負荷設備、発電設備、蓄電池設備の点検(掃除、外観点検、接地抵抗・絶縁抵抗測定、保護継電器・連動試験、非常用発電設備の自動起動・停止試験、蓄電池設備の電圧・比重・液温測定等) | 35時間程度 |
事故応動 | 設置者への問診・報告低圧事故対応(絶縁監視装置発報時の初動、低圧回路での模擬漏電探査、復旧作業等)高圧事故対応(ヒューズ溶断・保護継電器動作時の初動、高圧回路での模擬漏電探査、復旧作業等)危険体験(危険体感設備での体験、事故動画の視聴等) | 10時間程度 |
太陽電池発電、設備の点検 | 太陽電池パネル・架台の点検使用前自己確認の方法 | 5時間程度 |
座学 | 電気基礎(計算訓練)事故応動(事故事例の学習、電気事故報告の方法)太陽電池発電設備の点検(架台の構造)作業安全・新技術・サイバーセキュリティ | 5時間程度 |
実務経験を数年積むよりも、早いうちから外部委託に従事できますが、一時的に費用と日数がかかるので、人によってはデメリットに感じるでしょう。
現場での対応力は少なくなる
保安管理業務講習で実務経験が短縮できるのは一つのメリットですが、短縮するが故に現場経験が少ないまま従事する可能性があります。
最初のうちはトラブルになる恐れもあるかもしれませんが、経験は後からでもついてきます。必要以上の心配はいりません。
電気主任技術者として早く活躍するために講習を検討してみましょう
保安管理業務講習を受ければ、早い段階から電気主任技術者としての活躍の幅が広がります。費用と時間はかかりますが、将来的なメリットは大きいです。
知識と経験を早く身につけ、電気主任技術者としてのチャンスを増やしたい方は、ぜひ講習の受講を検討してみてください。