電気主任技術者の選任とは?

電気事業法では、事業用電気工作物を設置する業者に対し、保安規程の届出と電気主任技術者の選任を義務付けています。これは事業者の任意ではなく、法律で定められた義務です。

主任技術者選任義務・職務誠実義務(第43条)電力会社等が事業用電気工作物(火力発電所等)を設置する場合は、保安の監督を行う主任技術者を置かなければなりません。引用元:電気工作物の保安(METI/経済産業省)

ただし、全ての電気工作物に電気主任技術者の選任が必要なわけではありません。電気工作物は「事業用電気工作物」と「一般用電気工作物」に分類され、一般用電気工作物は600ボルト以下の低圧電力を扱うため、電気主任技術者の選任は不要です。

電気主任技術者の選任が必須なのは、600ボルト以上の受電設備を持つ事業用電気工作物を設置する業者のみとなります。

電気主任技術者の種類による選任対応範囲

600ボルト以上の受電設備を持つ事業用電気工作物を設置する業者の場合は、電気主任技術者を選任しなければなりません。しかし、電気主任技術者と一重にいっても資格の種類によって対応可能な事業用電気工作物のレベルが異なります。各種の電気主任技術者が保安監督できる電気工作物の範囲は以下のように定められています。

電験3種電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物
電験2種電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物
電験1種すべての事業用電気工作物

(参考元:ECEE 一般財団法人電気技術者試験センター

対象施設の設置は、上記の条件を満たす資格所有者を選任しなければなりません。

電気主任技術者の選任形態

電気主任技術者の選任は、必ずしも自社で選任しなければならないわけではありません。

選任形態は、「自社選任」、「外部選任」、「責任許可」の3つがあります。それぞれの違いは、以下のとおりです。

選任形態自社選任外部選任選任許可
選任対象設置者又は自社の役員もしくは従業員のうち、主任技術者の免状交付を受けている者外部委託会社又は派遣法に基づく派遣(主任技術者の免状交付を受けている者)設置者又は自社の役員もしくは従業員のうち、主任技術者の免状交付を受けていない者だが法定要件を満たす者
管理できる設備の規模制限無し制限無し(自家用電気工作物のみ)最大電力500キロワット未満
常駐/非常駐常駐
設備数原則として一つ
業務電気工作物の保安の監督
備考自社選任、外部選任は兼任も可能

(参考元:電気保安体制を巡る現状と課題|産業保安グループ 電力安全課

自社選任と外部選任の選任形態

上記で選任形態について解説しましたが、「自社選任」と「外部選任」においては、さらに3つの選任形態に分かれます。それぞれの違いは、以下のとおりです。

選任形態選任統括兼任
選任対象電気主任技術者電気主任技術者電気主任技術者
対応できる設備の規模出力等の制限なし17万ボルト未満の太陽電池発電設備、風力発電設備、水力発電設備・5,000キロワット未満の太陽電池発電設備・其れ以外の設備は2,000キロワット未満
常駐/非常駐常駐非常駐(統括事業場に常勤)非常勤(専任事業場に常勤)
事業場数1カ所6カ所6ヵ所(専任1+兼任5)
業務電気工作物の保安の監督
備考設置者以外の従業員の選任が可能(労働者派遣契約又は業務委託契約が必要)保安組織の構築が必要国によって点検頻度が定められている

(参考元:主任技術者制度に係る見直しについて|産業保安グループ 電力安全課

外部委託制度とは?

ここまで解説してきたように、事業用電気工作物を設置する事業者は、電気主任技術者の選任をしなければなりません。

ただし、電気事業法施行規則第52条第2項により、一定の要件を満たす場合には電気主任技術者を選任せず、外部委託が可能になります。これを外部委託制度といいます。

自家用電気工作物であって、出力5,000キロワット未満の太陽電池発電所又は蓄電所、出力2,000キロワット未満の発電所(水力発電所、火力発電所及び風力発電所に限る。その他の発電所は出力1,000キロワット未満の発電所)、受電電圧7,000ボルト以下の需要設備、600ボルト以下の配電線路を管理する事業場の工事、維持及び運用に関する保安の監督業務を委託する契約を第52条第2項に規定する要件に該当するものと締結しているものであって、保安上支障がないと所轄の産業保安監督部長の承認を受けたものは、電気主任技術者を選任しないことができる。(引用元:電気事業法施行規則 | e-Gov法令検索)※一部抜粋

保安管理業務の外部委託先要件

保安管理業務の外部委託先の要件は、電気事業法施行規則第52条の2に規定されています。

要件をまとめると、以下のようになります。

外部委託先となる個人の要件必要な資格、保有すべき機械器具、受託事業場数の制限等の要件を規定する。 承認の取消しから2年を経過しない者でないことを要件とする。
外部委託先となる法人の要件電気管理技術者と同様の要件を規定する。組織のマネジメントに関する要件を規定する次の要件を満たし、かつ、これらを担保する社内規程等が整備されていることを要することを規定する。保安管理業務の実施体制を構築し、保安業務担当者が明確な責任の下に保安管理業務を実施するあらかじめ定められた間隔で保安管理業務のレビューを行い適切な改善を図る

(参考元:保安管理業務外部委託承認制度の概要について|経済産業省 関東東北産業保安監督部 (METI/経済産業省 関東東北産業保安監督部)

外部選任と外部委託制度の違い

ここまでで外部委託制度について解説してきましたが、「外部選任」と「外部委託制度」はいずれも外部に依頼する方法であるため、それぞれの違いについて分からない方もいるかと思いますので、それぞれの違いについて解説します。

まず、外部選任とは文字通り自社ではなく外部の会社(管理会社等)から電気主任技術者を選任することを指します。外部選任を行うためには、以下2つの条件を満たさなければいけません。

  • 契約書等に、電気主任技術者制度の解釈及び運用(内規)1.(1)イロハの三つの文言を含めること※1
  • 電気主任技術者は事業場に必ず常駐すること

対して、外部委託制度は、一定の条件を満たした法人や個人と保安管理業務に関する委託契約を直接結ぶことで、電気主任技術者の選任を免除する制度です。

いずれも、結果的に電気主任技術者を置くことに変わりはありませんが、大きな違いとして「電気主任技術者を事業所内に常駐させるかしないか?」があります。外部委託制度の場合は、事業所に常駐させる必要がないため、手続きなどがスムーズになります。

ただし、外部委託制度が可能なのは、ある程度小規模な事業所に限定されます。

※1 電気主任技術者制度の解釈及び運用(内規)

電気主任技術者の働き方を理解しよう

電気主任技術者としての働き方には、様々な形があります。今回紹介した、選任と外部委託も、働き方として理解しておくべき一つです。

電気主任技術者になりたての方にとっては少し難しい話なので、すべてを覚える必要はありません。しかし、今後、働いていくなかで少しずつでも理解を深めることをおすすめします。ぜひ、「選任と外部委託って何が違うんだっけ?」と疑問をもった際には、改めて本記事を確認してください。

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