社会において必要不可欠な電気を扱う仕事、電気工事士。その仕事内容はどのようなものなのか、電気工事士のメリットやデメリット、どのような人に向いているのかを本記事で解説します。また、電気工事士の上位資格である電気主任技術者についても紹介しています。
電気工事士の資格を取得し「さぁ、仕事をするぞ!」と意気込んだものの、全然仕事がない……という状況にはなりたくないですよね。電気工事士の仕事とは一体どんなものなのか、どこに需要があるものなのか、そしてどのようなメリット・デメリットがあるのか、本記事で見てみましょう。
電気工事士とは?
現代社会においてなくてはならない電気。ビルや工場、商店、一般家庭など、どこにおいても必要不可欠です。そんな電気設備の安全を守るため、工事の内容によっては一定の資格のある人でないと行ってはならないものがあると、法令で定められています。その一定の資格のある人が「電気工事士」です。電気工事士とは、電気設備の工事や取り扱いになくてはならない国家資格なのです。
電気工事士の資格には2種類ある
電気工事士の資格には、第一種と第二種の2種類があります。
第二種電気工事士 | 一般住宅や店舗などの600ボルト以下で受電する設備の工事に従事できる |
第一種電気工事士 | 第二種の範囲と最大電力500キロワット未満の工場、ビルなどの工事に従事できる |
(出典:一般財団法人 電気技術者試験センター)
第二種電気工事士の資格があれば、一般住宅や小規模施設の電気工事を行うことができます。コンセントや照明器具、壁スイッチなどの交換や移設、防犯カメラの設置などができるため、古民家再生やリフォーム、DIYや趣味の幅などが広がる資格とも言えるでしょう。
一方で第一種電気工事士の資格があれば、病院やショッピングモール、オフィスビルや工場などの大規模な工事を行うことができます。
電気工事士が活躍できる業界は?
電気工事士は、工場、ビル、発電所や変電所、住宅などのさまざまな電気設備の工事を行うことができます。電気工事に関する企業はかなり幅広く、建築業界だけでなく、鉄道業界や情報通信業界でも活躍することが期待できます。
ここではその仕事内容について、「建設電気工事」と「鉄道電気工事」の大きく2つに分けて解説します。
建設電気工事
建設電気工事とは、建設に関わる電気工事のこと。工場、ビル、病院、住宅など、あらゆる建物の電気設備の設計や施工を行います。新しい建物をゼロから作る場合は、電気配線の設計・施工、配電盤や電気設備の設置を行うなど、電気に係る工事が必要です。また、古民家再生やリフォーム、改修工事などで新たな電気設備や配線を追加するなどの工事も必要となってきます。エアコンの設置から大型機器の制御回路のメンテナンスまで、扱う幅も広く、仕事の種類も多様に存在します。一般家庭から公共施設まで、様々な工事に関わることが可能です。
鉄道電気工事
日本を支える鉄道インフラ。そんな鉄道の安全な運行を支えるための電気工事も、電気工事士の仕事のひとつです。日本の鉄道は、世界でもトップレベルの運行を行っています。鉄道には、電車に電気を送る架線、安全運行を支える信号システム、踏切、駅の照明・通信設備、そして電力を供給する発電所・変電所に至るまで、さまざまな電気設備があります。これらの電気設備が故障することのないよう、施工や保守業務を行う仕事が鉄道電気工事です。
電気工事士のデメリット
「自分の希望が叶う電気工事士の仕事がない……」となってしまうのを防ぐために、デメリットを知ることも大切です。ここでは、電気工事士が「きつい」と感じるデメリットを解説します。
デメリット①労働時間が長い
電気工事士は、労働時間が長くなる場合もあります。多くの業務には決められた工期があるため、そこに間に合わせる必要があります。元々の計画通りに進めば問題はありませんが、現場には不測の事態がつきもの。電気工事は工事全体の後半に行われることが多く、他の工程の遅れの影響を受けやすいことから、残業や休日出勤の必要が出てくる場合もあります。
デメリット②休みが少ない
現場や工事の体制によっては休日出勤が必要な場合もあります。また、現場によって休日の設定が異なるため、土日が休みにならない現場も少なくはありません。工期が近づいていると、その工期を守るために週に1日しか休みがないこともあるため、デメリットに感じる人もいます。
デメリット③危険を伴う作業が多い
電気を扱う仕事は、常に危険と隣り合わせです。感電や漏電のリスクは特に気を付けたいところ。特に高電圧を扱う現場であれば、その危険性はさらに増します。感電による事故も決して少ないとは言えないため、注意が必要です。
また、電気工事士は高所で作業することも多いため、転落などの危険を伴うことがあります。
どのような場面でも、事故には十分に注意することが必要です。
デメリット④年収が低い
電気工事士の資格を取ってすぐの頃は、年収がなかなか上がらない場合があります。いわゆる「見習い」と呼ばれる期間は、待遇が悪いところも少なくありません。日々の頑張りが給与という形に思うように反映されないことに、デメリットを感じる方もいます。ですが、会社の規模や地域、本人の能力によって給与は異なるので、事前に調べておくことが大切です。
電気工事士のメリット
電気工事士には先に述べたようなデメリットがありますが、下記のようなメリットもあります。メリットとデメリット、どちらも知っておくことが大切です。
メリット①転職・就職に有利
電気工事士は仕事の範囲がかなり広く、多様な企業に求められる人材です。そのため、求人数も多く、ニーズの高いポジションです。資格を持っていることで面接でアピールでき、志望動機につなげやすくなることから、転職活動や就職活動に有利になると考えられるでしょう。
メリット②手に職をつけられる
国家資格である電気工事士は、その資格がなければ電気工事を行うことができません。経験を積んで技術が精錬されてゆけば、一生モノの仕事にすることができるため、手に職をつけることができます。企業に所属するだけでなく、ゆくゆくは独立を狙うこともできる資格です。
メリット③長く働くことができる
電気工事を行うには電気工事士の資格がなくてはなりません。電気なしの生活は考えられないため、今後も必要不可欠な資格と言えます。また、近年では環境面の問題などからオール電化や太陽光発電設備の需要が増しているため、今後もニーズは高まっていくことを考えると、将来性のある職業と言えるでしょう。
さらに、電気工事士の資格があれば、本業だけでなく副業として技術を活かすことも可能です。あらゆる働き方ができるので、ライフステージに合わせて柔軟に働き方を選択することができます。技術を活かして長く働くことができる資格が、電気工事士です。
電気工事士に向いている人
電気工事士の仕事内容、メリットやデメリットについて見てきました。それでは、電気工事士とは一体どのような人に向いているのでしょうか?見ていきましょう。
細かい作業が得意な人
電気工事士の仕事は、配線を正確に行うことや、細かい部分までしっかり点検し、保安業務を行うなど、細かい作業が多いです。そのような地味にも見える細かい作業が苦にならず、やり遂げることのできる人が向いています。
責任感のある人
電気工事士が扱う電気回路や保安装置は、不良が起こると火事などの事故の原因となります。とても重要な仕事のため、責任感のある人に向いています。
電気に興味のある人
電気工事士という名前にある通り、電気についての興味がないと何も始まりません。電気工事士の資格を取得するためには知識を深める必要があるため、電気分野に興味がないと勉強をするのも苦痛に感じられるでしょう。また、資格取得後に実際に働き始めてからも、経験を積むために自己研鑽として学びを深める必要もあります。幅広い分野を扱う電気工事士は、電気に興味のある人にとっては楽しいと感じられる職業です。
コミュニケーション能力のある人
電気工事士は現場で作業することが多いです。現場はチームで動くことがほとんどなので、コミュニケーション能力は必要不可欠。スムーズに業務が進められるよう、うまく周りと連携を取ることのできる、コミュニケーション能力のある人は、電気工事士に向いていると言えるでしょう。
電気工事士の上位資格「電気主任技術者」
電気工事士の上位資格に「電気主任技術者」があります。
電気主任技術者は、発電所や変電所、工場やビルなどに設置されている受電設備や配線などの電気設備の保守・監督を行うために必要な国家資格です。電気設備を設けている事業主は、その工事、保守、運用などの保安監督者として、電気主任技術者を選任しなければならないことが電気事業法で定められています。
電気工事士は電気設備の工事を担うのに対し、電気主任技術者は電気設備の保安や監督を担います。電気主任技術者は、電気工事士を監督する立場にあります。
電気主任技術者は3つに分類される
電気主任技術者は、取り扱うことのできる電気工作物の電圧に応じて、第1種、第2種、第3種に分かれています。
第三種 | 電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物(出力5千キロワット以上の発電所を除く) |
第二種 | 電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物 |
第一種 | すべての事業用電気工作物 |
第三種電気主任技術者の資格があると、電圧が5万ボルト未満の商業施設やオフィスビルなどの受電設備を取り扱うことができます。
電気主任技術者の仕事内容
電気主任技術者のメインの業務は、電気設備の点検作業です。具体的には、電圧や電流の計測・記録、絶縁体の抵抗の測定、非常用発電機の点検、配線のネジの確認などです。
また、ほこりなどによって電気設備が故障するのを防ぐための設備周辺の清掃作業や、電気設備の故障時や不具合、トラブルなどが発生した際の対応も業務に含まれます。
電気主任技術者のメリット
電気主任技術者の資格は、電気工事士よりもかなり難易度の高いものになります。ですが、資格を取得すると下記のようなメリットが考えられます。
メリット①需要が高い
電気主任技術者の資格を有していると、電気事業法で定められた独占業務に従事することができます。独占業務とは、その資格を持っていないと携わることのできない業務のことを言います。電気事業がなくてはならない現代において、電気主任技術者のニーズはかなり高く、安定的な需要が見込まれます。
メリット②就職・転職に有利
有資格者の高齢化に伴う退職などの影響から、各企業は電気主任技術者の資格保有者の人材確保に力を入れています。そのため、電気主任技術者の資格を持っていれば「電気のスペシャリスト」としてのアピールが可能です。
また、資格保有者がいなければ企業が独占業務を遂行することができないため、電気主任技術者の資格を持っている人材は転職市場においての価値がかなり高く、転職に有利であると考えられます。
メリット③抜群の将来性
経済産業省の資料「電気保安人材の持続可能な確保・活用に向けた制度のあり方について」によれば、電気主任技術者の有資格者は、2030年には約2,000人が不足するという推計結果が出ています。
今後、どの業界においても必要とされる資格である電気主任技術者。今から資格を取得し、実務経験を積むことで、安定して長く働くことが可能になります。また、その高い専門性と技術知識を活かして独立することも可能です。
メリット④収入アップが見込まれる
電気主任技術者の資格を取得すると、会社によっては資格手当を受けることができるため、今までより収入が増加する可能性が高まります。
厚生労働省の発表した「令和4年賃金構造基本統計調査」の結果によると、電気工事士の平均年収は506.8万円。電気主任技術者は、電気工事士を監督する立場でもあるため、電気工事士よりも年収が高いことが期待できます。
また、実務経験を積んだのちに独立した場合、年収が1000万円を超えることも可能であると言われています。
まとめ
電気工事士は、様々な業界で活躍することができます。「自分の希望に叶った仕事がない……」とならないよう、メリットとデメリットを知った上で、どのような求人が自分の希望が叶う仕事なのかを選択することが大切です。
また、電気関連の資格は、電気工事士だけではありません。電気工事士の上位資格である電気主任技術者の資格を取得することができれば、電気工事士よりもさらにスキルアップとなり、活躍の幅がぐんと広がります。ゆくゆくは電気主任技術者の資格を取得することを念頭に、キャリアの選択をすることも方法のひとつです。ちなみに電気主任技術者に関しては、「資格取得を目指している人」を対象にした求人も存在します。まずは実際の求人を見て、イメージを膨らませてみるのもいいでしょう。